「宮永岳彦記念美術館」では、宮永作品を順次、展示しています。
より多くの皆様に、この貴重な文化芸術資源を知っていただくため、「Miyanagaコレクション」と題して、宮永作品の紹介をしています。

『チャイルドブック昭和41年5月号』表紙
解説
紺碧の空をダイナミックに泳ぐこいのぼり。クマとサルを背に乗せて、意気揚々と何処を目指しているのでしょうか。
この作品は、幼児向け月刊絵本 『チャイルドブック』 の表紙原画です。端午の節句をテーマにしたこの表紙画を見て、子どもはもちろん、親たちの心もときめいて釘付けになったことでしょう。
なつかしさとワクワクがつまったこの絵には、見る者を童心へといざない、温かくおおらかな気持ちにさせてくれる力があります。それは宮永が心から楽しんで童画を描いていたからかもしれません。後年、油彩による美人画に専念していた際も童画だけは描き続けたことから、宮永の童画への思いの強さを知ることができます。
長年描き続けたチャイルドブックの表紙を見ていくと、宮永が“季節感”をことさら大切にしていたことがうかがえます。季節の風物や行事を楽しく鮮やかに描くことで、子どもたちが四季の移り変わりを自然に受け入れて情緒豊かに日々を過ごしてほしい、という願いを込めたのではないでしょうか。
こいのぼりの背に乗るクマとサルは肩掛けバッグをさげ、準備も万端に冒険の旅へ出発するように見えます。宮永の描く童画は、いつの時代も子どもたちの好奇心を刺激し、自由な想像力を羽ばたかせる魅力を持っているのです。
中栄信用金庫1973年カレンダー
解説
男の子と女の子が向き合い、3個のリンゴの分け前をじゃんけんで決めているのでしょうか。何ともユニークな表情と仕草に思わず笑みがこぼれます。
宮永は、企業のポスターも多数手掛けました。その作風は、子どもの姿を単純化し、愛らしく仕上げたものから、モデルのように端正でリアルに描写したものまで、対照的なタイプを描き分けました。カレンダーは1枚ものとする協定が結ばれ、担当者が秦野のアトリエに詰め掛けて、原画を奪い合うほどの人気でした。
宮永が童画を描いたのは、終戦後に松坂屋銀座店でショーウィンドーを担当したのがきっかけです。絣の着物を着て四季折々の行事を楽しむ子や、ランドセルを背負って入学を喜ぶ子を愛嬌たっぷりに描き、道行く人々の敗戦で荒んだ心を和ませました。
その後、宮永は商業デザインの分野でも活躍し、「ぺんてるくれよん」のパッケージのキャラクター「ペペ&ルル」を生み出します。本作品に、そのペペ&ルルを投影する方も多いのではないでしょうか。本展では懐かしいポスターも展示していますので、お気軽にお立ち寄りください。
ぺんてるサインペンポスター
解説
1963年に発売され、第3の筆記具として世界的に大ヒットした「ぺんてるサインペン」のポスターです。宮永はサインペンの市場導入時から広告デザインを担当しました。
ぺんてるとの出会いは、1951年頃。地下鉄で童画が描かれた松坂屋の中吊りポスターを見かけたぺんてるの担当者が、松坂屋に問い合わせたところ、当時宣伝部に所属し童画のポスターを制作した宮永を紹介されました。その後、「ぺんてるくれよん」の広告デザインの依頼を受け、広告用に童画を描きました。当時描かれたキャラクターの「ぺぺとるる」は、今でも「ぺんてるくれよん」のパッケージとして受け継がれています。
かわいい童画や躍動感あふれる人物像に、写実的なものから抽象的なものまで、様々なデザインを優れた画力で描きわけ、依頼者の要望を的確に表現する。そんな宮永に、グラフィックデザインの仕事の依頼が殺到しました。多忙な中、並行して油彩画の制作も行う宮永に対して、「器用貧乏」と揶揄(やゆ)する声もありましたが、「器用貧乏が勝つか不器用が勝つか、勝負してやる」と闘志を燃やしました。
本展では、ぺんてるくれよんのパッケージや海外向けに制作されたぺんてるのポスター、同時期に描かれた油彩画などを併せて展示しています。宮永の多彩さを、ぜひ美術館でご覧ください。
無題(寄贈)
解説
民族衣装のような服の女性が凛とした表情で一点を見つめています。横顔に光が当たり、影になる髪の毛は柔らかく表現されていて、晩年の宮永の美人画を思わせる、無造作で大胆な筆致になっています。
この作品は東京都内にお住いの数原俊男様のご厚意により当美術館にご寄贈いただきました。ご寄贈に際し、頂戴したメッセージをご紹介します。
私の父が宮永岳彦先生にご指導頂いたご縁で、父から譲り受けた絵です。今までこの絵は、我が家の2階に昇った真正面に飾ってありました。
階段を昇りながらふと見上げると、「彼女」がいます。楽しかった、腹が立った、疲れたぁ〜 ‥‥
色々な日々の感情を、いつもさりげなく受け止めてくれました。
私の父が慕った宮永先生のふるさと、私たちが大変懇意にさせて頂いている方も秦野に住んでおられます。
私にとってとても身近に感じるこの地に、「彼女」の新しい居場所を求めたいと思いました。
聖〈べラスケス「王女マルガリータ」想〉

解説
この作品は、スペインのバロック絵画を代表する画家ベラスケスの「王女マルゲリータ」に着想を得て描いたもので、「回顧のルネッサンス」シリーズの1作です。「民族衣装」「鹿鳴館」「回顧のルネッサンス」シリーズと、古典絵画への挑戦を続けていた宮永は、試行錯誤を重ね、水墨画のぼかしなどの技法と西洋風油彩技法を見事に融合させた独自の作風を確立しました。
左からやさしい光が差し込み、その光と影の効果が、王女の柔らかい髪の質感や肌の透明感、衣装や背景の重厚さを際立たせています。朱色や金色といった豪華さを彩る色を多く使用していますが、決して派手になり過ぎない抑制のきいた落ち着きがあり、そこに宮永の優れた色彩感覚や構成力を見ることができます。
晩年、油彩に専念した宮永ですが、王女の凛としながらも愛らしい顔は、それまで描いてきた童画の世界を思わせます。