平成28年(2016年) 広報はだの12月1日号 3面 No.1160 ●「さあ、秦野竹取物語の幕開けだ。」 関口 修さん(40歳・BAMBOO PROJECT JAPAN代表)  きっかけは10年ほど前。趣味のDJが高じて、仲間と丹沢の麓で夜の野外ライブを控えていたときだった。  「これでキャンドル作っちゃうか」  日が傾き、予想以上に暗くなった会場。ふと、足元に転がる竹の破片が目に付いた。遊び半分の一言で作った小さな光たちは、思いのほか会場を幻想的な空間に一変させた。来場者にも好評だった。なにより、この光に引かれている自分がいた。  後日、ひょんなことから秦野の竹林が荒れているという話を耳にした。持ち主の高齢化で、間伐などの管理がままならないらしい。頭の中で、2つの点がつながった。  「竹で、光のアートを作ろう」  人づてに持ち主を巡り、市内3カ所の竹林で、切り出しの許可を得た。  「こちらも助かるよ。ありがとう」  人に感謝されるアート。それがなんだか気恥ずかしく、新鮮だった。決意は固まった。これまで塗装業一本だった自分の会社に、環境事業を加えた。名は、「バンブープロジェクトジャパン」。竹で地元の名を世界に広めたいという願いを込めた。冒頭の出会いから、1年後のことだった。  まずは、つてのあった音楽イベントを中心に依頼を受けた。自分たちで竹を切り、トラックで全国各地の会場へ運び、現地で作品を作る。その繰り返し。大きなオブジェは、素材の特性を生かし、曲線美にこだわった。細く切り出し、空中で大胆なラインを描き、それらを交差させていく。元々アートと無縁の自分たちは、持ち前の感性に頼るしかない。素材のしなり具合を見極め、デザインは作りながら考える。最後に照明を当てるときは、命を吹き込む感覚。宇宙のように空間が広がり、会場の雰囲気に溶け込む瞬間がたまらない。  竹は世界的に注目されているらしく、海外からも声がかかるようになった。今後は、全国を巡る体験型のワークショップや地元で大きなイルミネーションイベントができれば―。足元に転がる「新しい何か」を探しながら、そんな思いを巡らせている。 ①寺山の工場にて。複雑にくり抜かれた芸術的な竹のキャンドルが、所狭しと飾られている。 ②竹のアーチとイルミネーションのコラボ。吸い込まれるような立体感が見る人を魅了する。 ③市民の日のピースキャンドルナイトの会場中心にたたずむオブジェも、毎年制作。 ●「絆を継ぐ輝きが、ここにある。」 越光 森茂さん(62歳・市障害者事業推進センター事務局長)  「ソーラー電源で自ら発光」、「廃材を使ったペットボトルツリー」、「光とイラストのコラボレーション」。イベントに華を添えるこれらのイルミネーションに、共通のテーマはない。強いていうなら、楽しんで作ること。ただそれだけだ。  「光だけの作品じゃないから、日中にも来てみたいね」 そう口にする人も多い。手作りならではの温もりが、この公園に人を集める。開園当初から始まった大道イルミネーションフェスティバルは、今年で7回目。昨年は市内の障害者施設を含む14事業所が、商店会や自治会と共に作品を展示した。少しずつでも、参加団体が増えているのがうれしい限り。作品の仕上がりも、個性を売りに毎年工夫を凝らしているのが見てとれる。中には、全く新しいオブジェに作り変えるところもある。回を重ねる度にイベントが成長していくような感覚。それを味わうのが、主催者ならではの楽しみだ。  障害者の活動をこうした形で多くの人の目に触れてもらう機会は、決して多くない。「就労支援だけでいいのか」「交流し、理解し合うには何が必要なのか」。それらを自問自答している。自分や地域も、このイベントで成長しているのかもしれない。  会場の準備は、半月以上前から始まる。それほど広くはないが、全体の装飾は一苦労。商店会の人たちは、仕事の合間を縫って夜遅くに集まり、協力してくれる。施設の屋上でせわしげに電飾を張り巡らせる私たちを見上げて、道行く人が声をかける。  「今年も、もうそんな時期だねえ」    ああ、ようやく地域の恒例になってきた。寒さよりも感動で身震いする瞬間だ。だが、身近な存在になったからこそのトラブルも付き物。時には、夜に若者が集まって騒いだり、作品が壊されたりしたこともあった。それでもこうして続けられているのは、まさに地域住民の理解に他ならない。  ここは、観光スポットではない。このイベントを続けることが、地域と障害者との絆なのだと信じている。 ①今年の大道イルミネーションフェスティバルに展示する作品と共に。個性光る作品に思わず笑顔。 ②昨年のペットボトルツリー(NPO法人ちっちゃな星の会制作)。エコに対する思いも込めて。 ③会場となるさかえちょう公園。恒例のツリーやアーチも並び、多くの人でにぎわう。