広報はだの9月1日号 4-5面 No.1154 チカイナカ 秦野をもっと近くする ちょこっと田舎暮らしのススメ 田舎の魅力に心惹かれた人が行きつく先は、「暮らしたい」。 でも、どんな田舎があるの? 私の求める田舎って? 彼らは、きっと迷う。 その人の選択肢に「秦野」はあるだろうか。 彼らをここへ導くコンシェルジュが今、東京にいる。 昨年12月に神奈川県のブースがオープン ちょこっと田舎・かながわライフ支援センター ▲東京・大阪・愛知・北海道を除く43府県と18市町(平成28年8月1日現在)が個性豊かなポスターなどで地域をPR。求人・住宅・子育てに関するパンフレットなども手に入る。 秦野市の職員も東京でPR  センターを運営する認定NPO法人ふるさと回帰支援センターは、都内で定期的にセミナーも開催。各自治体の職員が移住希望者へ地域の魅力を直接PRしている。本市も、これまでにセミナーやフェアに3回参加。「交通の利便性」と「自然の豊かさ」を兼ね備えた、秦野ならではの暮らしやすさをアピールしている。 神奈川にあるよ 憧れの田舎  都心近くにありながら、水や緑に囲まれた「ちょこっと田舎」な神奈川県。都会と田舎の両方の良さを生かして、県内で人口減少が進む地域などへの移住を後押しする。窓口には専門の相談員がいて、相談者のニーズに合った地域や移住までのプロセスなどを提案してくれる。 ☎070(4127)5905(定休日 月・火曜日) ターゲットは、東京在住・在勤者  場所は、東京のオフィス街・有楽町(JR有楽町駅徒歩1分 東京交通会館8階)。「きれいな空気の中で子育てをしたい」「仕事を続けながら農ある暮らしに挑戦したい」 「第2の人生を静かな場所で過ごしたい」  そんな人たちに、移住に役立つさまざまな情報を提供している。 栁沢 寿樹 相談員(43歳) ちょこっと田舎・かながわライフ支援センター 『何度も触れるから、覚悟ができる』  実は私も、田舎暮らしに憧れて移住した一人なんです。4月にこの仕事に転職するまでの15年間、東京都の新島で暮らしていました。そこでの実体験を生かして、単なる自治体のPRや相談者の要望を鵜呑みにすることのないよう、相談者の今後の人生に寄り添うことを大切にしています。  私は、相談者に必ず確認していることがあります。それは、田舎暮らしの「覚悟」があるかどうかです。ここでいう覚悟とは、「近所付き合い」です。憧れの田舎暮らしをスタートさせても、1年を待たずして辞めてしまう人が少なくありません。大半の人は、この覚悟がないからです。都会の生活では、隣人とすら全く話さない人もいます。「地域活動がタダ働きにしか感じられない」「常に誰かに監視されている気がする」と思ってしまうのも、無理はありません。ですから、「初めは煩わしいと思っても、それ以上にいいことが返ってくるのが田舎なんですよ」と、お伝えしています。タダ働きではなく「信頼づくり」、監視ではなく「見守り」なんだと、私も島での生活で気付きましたから。  また、これまで多くの方の相談を受けてきて意外だったのは、地域の下調べをせず、とりあえず古民家や菜園付きの家などを求めるだけで、物件ありきで移住先を求める人が非常に多いこと。これこそ、地域のコミュニティーに入れなくなる危険なパターンです。何度も地域に足を運んで、まずはその場所を知るようにアドバイスしています。  地元の住民と交流したいという方のために、秦野の農業体験クラブなどの市民団体を紹介することもあります。就農したい人は若者も含めて多いので、移住希望者にとって、こうした活動は農業のハードルを下げる意味でもとても魅力的です。最近、上地区で行われた体験イベント「いなか暮らしふるさと塾」も、興味を持って参加した方が多かったそうですね。  移住を決める前に、その土地の田舎らしさに気軽に触れることのできる機会があること。気軽に行ける距離であること。この2つは、私が移住希望者にぜひおすすめしたい「ちょこっと田舎」の要素です。秦野はそれらを充分に備えていると思うので、市や地域の方に、移住希望者を快く受け入れてもらえたらうれしいです。 ちょこっトピックス 田舎暮らし希望者が求める就労形態  都会で暮らしている田舎暮らし希望者の半数以上が、移住先でも企業などへ就職したいと思っている。一方、「2015年に1都3県へ本社機能を移した企業数は過去最多で、16年もこの傾向が続く。」(平成28年8月8日の日本経済新聞朝刊)とある。地方都市へ移り住んでの就職は年々厳しい状況にあるため、「都会に通える田舎」は、今後さらに人気が高まっていくのではないだろうか。 上地区いなか暮らしふるさと塾  秦野の原風景ともいえる里地里山に囲まれた上地区で、田舎暮らしを体験できるイベントが6月に開催された。おととしの夏に初開催し、今年で3回目。大人にも子供にも田舎暮らしを楽しく体験してもらうために、地元のものづくりなどの達人・通称「たっしゃもん」が、自分の持つノウハウを教え、竹トンボや田舎料理作り、ドラム缶風呂の入浴や里山散策などを一緒に楽しんだ。 定住化促進住宅「ミライエ秦野」  35歳以下の若年夫婦または小学校就学前までの子供のみがいる世帯を対象とする公営の賃貸住宅(11月から入居者募集予定)。将来市内に住宅を購入し、定住の足掛かりにしてもらう。子育てアドバイザーが常駐し、乳幼児の遊び場にもなる子育て支援室があるほか、市内に住宅を購入した際、ミライエ秦野の入居期間に応じて最高60万円の住宅購入助成が受けられる。 移住希望者の声 K・Yさん (東京都江戸川区在住50代女性・料理人)  日本橋の日本料理店で修業中。農ある暮らしを求めて、4月に農作業初心者も気軽に参加できる「はだの有機栽培クラブ」に入会。平日の仕事の傍ら、週末になると上地区の菖蒲へ通い、農業体験をしている。 『二地域居住という選択肢』  都会で生まれ育ったので、以前から農業に憧れていたのが、きっかけでした。3年前に千葉の農地を借りて、野菜やハーブを育て始めたんです。その後、通っていた調理師専門学校で、有機農法を通じた美と健康に触れ、「コレだ!」と思いました。でも、学べる場所がなかなか見つからなくて。そんな折に、今年の冬、電車で支援センターのセミナーの広告を見かけ、相談員に秦野のクラブを紹介してもらったんです。  選んだ決め手は、ロマンスカーなど、電車の本数も多くて便利なこと。これなら今の仕事をしながら通えると思いました。そして空気がきれいで、日本一になった名水があること。私の求める有機農法には、理想的な環境です。あと、子供の頃に秦野へキャンプをしに行っていたので、ご縁を感じました。  ただ、私のようなよそ者をクラブや地元の方々が受け入れてくれるか、心配でしたね。有機農法自体、農薬を使っている地元農家の方々に迷惑をかけてしまうこともあると聞くので、本当にできるかが不安でした。  思い切って参加して4カ月。本業も始めたばかりで忙しく、通えないことが多いですが、とても楽しいです。初めて上地区の菖蒲に行ったときに、新宿から約1時間、しかも神奈川にこんな田舎があったのかと驚きました。堆肥からカブトムシの幼虫が出てきた時は感動ものでしたよ。これまで草取りやサトイモの植え付け、田植えなどを体験させてもらいました。地元の方は丁寧に教えてくれますし、同じ時期に入会した都内の夫婦もいたので、安心しました。  近い将来、都内での生活を続けながら、秦野にも家を構えて、週末だけ農ある田舎暮らしをする「二地域居住」に挑戦したいです。あと、料理人の仕事が一人前になったら、したいことが2つあります。一つは、食育。同じ野菜を年中食べられる世の中だからこそ、「旬」というものを都会の子供たちに教えたい。もう一つは、田舎の食のPR。秦野に新しくできる新東名高速道路のサービスエリアなどで、自分の料理で田舎の有機野菜の素晴らしさを伝えたいです。都内に自分の店を構えられたら、そこでもPRしたい。地元の協力があってできることなので、今後は皆さんともっと交流したいです。私が、都会との橋渡しになれればなって。こんなに身近ですてきな田舎を知ってもらわないと、もったいないです。