広報はだの3月1日号 2面 2011-2016 秦野で取り戻した光   過去を再び輝かせる 「お店に来た市民の方が、口々に建物を残したことを喜んでくれるんです。感謝で一杯です」  市長応接室で表彰状を受け取った荒川政幸さん(58歳・寿町)は、古谷市長に笑顔で近況を伝えた。 「秦野は7割が市外出身者。そうした人たちだからこそ気付く、まちの良さがたくさんあります」  市長の喜びもひとしおだ。  荒川さんが受賞したのは、前号でお知らせした「ふるさと秦野生活美観大賞」。大正時代からたたずむ本町四ツ角近くの洋館を、雑貨店「Green Grain」に改装した。その名のとおり、自然との調和と歴史を感じさせる、シックな空間が老若男女を問わず好評だ。 「念願かなって、よかったです。5年前に閉店したときは、こんなこと考えられませんでしたから」  店は元々、政幸さんの故郷、福島県にあった。ものづくりやインテリア好きの妻、淳子さん(50歳)と、夫婦仲良く手作りのステンドグラスやアンティーク雑貨を並べる平和な毎日。しかし、開店後わずか1年余りの3月11日、それは終わりを告げた。 「始めは、大切な商品を守るのに必死だった。ふと窓越しに、隣家の屋根瓦が落ちる様子が見えた。自分を守らなきゃと思った」  幸い、家族は無事に合流できた。津波で浪江町の自宅へは戻れず、淳子さんの実家がある秦野市へ車で避難した。大好きな店とものづくりは、被災地に置き去りになった。   半年後、いわき市の復興祭への参加をきっかけに、実家で雑貨の製作を再開。秦野市民の手厚い支援や周囲の応援が背中を押してくれたと、淳子さんは感謝のため息を漏らす。 「以前の店のお客様も、度々メールをくれました。体調を心配してくれたり、ネット販売でもいいから店を再開してと言ってくれたり」  知人の紹介で、市民の日や市外の定期的なイベントにも出店できるようになった。何より一番の支えは、淳子さんの両親だった。 「避難後の生活はもちろん、洋館の使用やリフォームでもお世話になりっぱなし。感謝しきれません」 と政幸さん。4年の歳月を経て、ついに去年4月、Green Grainは復活した。 「アンティークの心は、古きよきものを大切に。この洋館をお店にしたいと思ったのは、そんなところからきているのかもね」  店内に散りばめられた雑貨を眺めながら、政幸さんは喜びをかみしめる。入口には、被災地で壊れずに残っていたステンドグラス。駐車場には、拾い集めてきた思い入れのある食器などの破片を、白線代わりに埋め込んだ。店名は、以前の店と同じにしようと決めていた。 「震災で失いかけたものを、新しい形で残せたらって。物への執着は、人一倍ですから」  そう話す淳子さんは、生き生きしていた。   秦野を照らす存在に  震災から5年。開店から10カ月。2人に、今の思いを聞いた。 「秦野は人と人、まちと人との距離感が心地いいですよね」 と話すのは、政幸さん。店先での交流のほか、Facebookで2400人以上が登録しているグループ「秦野が大好き」に参加。まちの情報を交換しながら仲間を増やしている。 「想像以上にお店が多くてびっくり。新しいことを知る度、秦野は奥深いなって気付かされます」  淳子さんも、日々ブログを更新。店の紹介よりも多いのが、被災地などの話だ。避難当初は風評が怖く、福島から来たことを周りに黙っていたが、意を決して隠すことをやめた。 「復興がまだまだであることを、多くの人に伝えたい」  政幸さんも被災者としての思いを胸に、節目の3月11日、出雲記念館で開催される講演を引き受けた。 「みんなが一斉に避難することの大変さ。必ず起きる想定外。その危機意識を伝えたい」  これまで秦野へ避難した被災者は、94世帯236人。現在は、26世帯57人が住んでいる。荒川夫妻は、秦野に生涯身を置くことを決めた。 「被災者という肩書きのままではいけない。ここで一生懸命店を続けて、古くていいものをみんなに伝えたい。まちの活気に仲間入りして、秦野に恩返しをしたい」 と口をそろえる政幸さんと淳子さん。  この先、誰もが被災者になる可能性がある。Green Grainのステンドグラスの輝きに学ぶことは、たくさんある。 お出掛けください南相馬市  本市と災害時相互応援協定を結んでいるなど、交流が深い福島県南相馬市。常磐自動車道南相馬鹿島SAに隣接する「セデッテかしま」には、観光情報や特産品などが盛りだくさんです。 常磐自動車道全線開通1周年記念イベント とき 3月20日(日) 午前10時~午後2時 ※荒天中止 内容 郷土芸能の披露、白バイや雪氷車両の試乗など 問い合わせ 南相馬市観光交流課☎0244(24)5263 昨年4月オープンの「セデッテかしま」 ▲器用に「はんだ付け」をして鳥の飾りを作る淳子さん ◀︎店の駐車場に「思い出の破片」を ◀ステンドグラスから店内に穏やかな光が差し込む ▲器用に「はんだ付け」をして鳥の飾りを作る淳子さん ◀︎店の入口で輝くステンドグラス ◀︎時には避難者同士で交流も ◀材料のガラス選びを楽しむ政幸さん