◯3面 広報はだの 平成26年(2014年)9月1日 3 ひと×動物 小さな命を救う 救える命がある限り  行き交う人がのぞくケージの中には、愛らしい2匹の子猫。保護されている猫の新しい飼い主を探す里親会が、8月上旬、本町公民館で開かれた。主催したのは、野良猫の保護や里親探しなどをしている「相模どうぶつ愛護の会」。 「この子たちは、人間のわがままで捨てられたんです。誰か里親になってくれませんか」  小さな体で、人一倍大きな声を出していたのは代表の佐藤桂子さん(73歳・南矢名)。佐藤さんが動物愛護活動を始めたのは、30年以上前の昭和58年ごろ。 「当時は野良犬が多く、家の周りにも何匹もいました。施設に収容されれば、大抵は殺処分ですからね。何とかしてあげたかった」  小さな命を救いたいという思いから、動物愛護団体に参加するようになった佐藤さん。施設に収容された犬の飼い主を探す活動をし、多くの命を救った。平成16年には、相模どうぶつ愛護の会を立ち上げ、市内を中心に活動の輪を広げた。  佐藤さんらボランティアの活動などが実を結び、昨年度、県内4カ所ある動物収容施設のうち、2カ所で犬の殺処分が初めてゼロとなった。 「今までの苦労が報われたようで、本当にうれしかった。ずっと続くよう、これからも活動をしていかなければいけないですね」  犬や猫の殺処分の件数は、減少傾向にある。しかし、依然として多くの命が奪われているのも事実だ。救える命、救わなければいけない命がある限り、佐藤さんは活動を続けていく。 命のバトンをつなげて  家の中を元気に走り回る3匹の猫。優しい飼い主のもと、幸せな毎日を送っているが、以前は捨て猫だった。 「最初は人を怖がっていて、知らない人が来ると、すぐに隠れてしまいました」 と話すのは、飼い主の馬場理恵さん(曽屋二)。馬場さんが3匹と出会ったのは今年1月。既に飼っていた猫の遊び相手に、もう1匹飼いたいと思っていたときだ。 「せっかく飼うのだから、何かの役に立ちたくて、捨て猫の里親になろうと思いました」  相模どうぶつ愛護の会のホームページを見付けた馬場さんは、すぐに佐藤さんに連絡をした。保護されていたのは、3匹の兄弟猫。 「3匹が兄弟だと聞いて、1匹だけ引き取っていいものか悩みました。兄弟が離れ離れになれば、また辛い思いをさせてしまうかもしれないので」  夫の勇治さんと相談して、3匹の里親となることを決めた。命のバトンがつながった瞬間だった。 「1匹でもなかなか里親が見つからないのに、同時に3匹も。まるで夢のようでした」  そのときのことを、うれしそうに思い出す佐藤さん。  チロ、モカ、ピコと名付けられ、新しい生活が始まった3匹だが、生活が変わったのは、猫だけではなかった。 「この子たちが来てから、夫婦の会話が前にも増して多くなりましたね。幸せにしてもらったのは、むしろ私たちのほうです」  笑顔で話す馬場さん夫婦。動物が幸せに暮らせるということは、人も幸せに暮らせるということなのだ。 解決の鍵は地域の輪  心温かい人たちによってつなげられる命のバトン。しかし、動物愛護への理解は、まだ十分とはいえない。その原因の一つとなっているのが、野良猫による近所トラブルだ。 「全ての野良猫を保護して、里親を見つければ、問題は解決するかもしれませんが、現実的には不可能です。大事なのは、野良猫を野良のままにしないことなんです」  力を込める佐藤さん。そのためには「地域猫」の普及が不可欠だという。地域猫とは、野良猫に不妊・去勢手術をした上で、個人ではなく地域全体が飼い主となり、猫と共生していくという考え方だ。 「地域猫というと、地域の全員で面倒を見るものだと思われがちですが、面倒を見るのは、希望する人だけです。それ以外の人は、餌場の管理や、ふんの始末がしっかりと行われることを条件に、猫の存在を容認するだけでいいんです」  定期的に啓発活動を行っている佐藤さんだが、なかなか理解は得られない。皮肉なことに野良猫によるトラブルが多い地域ほど、話し合いの場は持たれないという。 「動物に関するトラブルの多くは、地域のコミュニケーション不足が原因。動物の問題は、地域の問題でもあるんです」  問題解決の鍵は、地域の輪にあると訴える佐藤さん。動物の問題を解決するには、まず地域の問題を解決することが必要だ。動物との共生を目指すことは、結果的に人にとって住みよいまちを目指すことなのかもしれない。 里親会に訪れた人へ里子(猫)の説明をする佐藤さんら 保護している犬に餌をあげる佐藤さん 猫との生活で幸せいっぱいの馬場さん夫婦 保護されている猫たち。小さな命を守るため、野良に戻してはいけない